2026-10-27

世界の医薬品開発製造受託(CDMO;Contract Development and Manufacturing Organization)産業は、単なる生産受託から深い戦略的パートナーシップへと移行する重要な転換期を迎えている。こうした構造変化は、主に三つの側面に表れている。第一に、大手企業が受託以外の事業を切り離し、受託専業へと転換していること。第二に、工場の立地選定の基準が、生産コスト重視から地政学的リスク・政策的リスクの評価へと移っていること。第三に、受託対象が一般的な製剤から、抗体薬物複合体(ADC;Antibody-Drug Conjugate)や細胞治療など、技術的ハードルの高い分野へと広がっていることである。
高齢化の進行が薬の需要を押し上げ、次世代バイオ医薬品の工場建設コストは上昇の一途、製造プロセスの複雑化が進み難易度が高まり続けるといったプレッシャーの下、製薬会社のアウトソーシング需要は顕著な増加を呈している。Fortune Business Insightsの研究報告によると、世界のCDMO市場の規模は2026年の2,149.5億米ドルから、2034年には4,199.3億米ドルにまで成長し、年平均成長率は8.7%に達すると予測されている。産業再編のフェーズへと進むにつれて、短期的にはアメリカの「バイオセキュア法案(BIOSECURE Act)」や医薬品関税によるサプライチェーンの再構成へと注意が向けられており、また長期的に見ると、高度な製造プロセスの移転が促進され、信頼性の高いサプライチェーンと深く結びつくことで、世界のバイオ医薬品製造の勢力図の塗り替えが進むと見られる。
CDMOのグローバル大手メーカーは、受託製造を本業としてリソースを集中させることで、顧客との利益相反を回避している。スイスのロンザ(Lonza)は2025年4月より、CDMO事業の再編成を進めており、統合バイオ医薬製剤(Integrated Biologics)、先進合成(Advanced Synthesis)、特殊療法(Specialized Modalities)といった三大プラットフォームを形成。2026年3月には、カプセルや健康原料事業の過半数の株式をアメリカのLone Star Fundsに売却すると発表した。売却額は約30億米ドルで、受託専業モデルへの転換を推し進めている。韓国のサムスンバイオロジクス(Samsung Biologics)は2025年11月に分社化が完了し、バイオシミラー(バイオ後続品、Biosimilar)を開発するサムスンバイオエピス(Samsung Bioepis)を分離独立させた。バイオシミラーとは、先行バイオ医薬品の特許満了後に開発された、高度に類似した生物由来の医薬品のことで、クライアントの薬との間で潜在的な競争が生じやすいとされる。サムスンは分社化したことによって、受託専業ビジネスの拡大へと、より専心することができる。一方、大手メーカーらはリソースを集中させた後に、投資の重心を技術的ハードルの高い領域へと移行している。ロンザは2026年6月にVisp工場の高薬理活性原薬とペイロード・リンカー(payload-linker)の生産能力拡張を発表した。ADCの製造需要に対応するために、2028年に操業開始の予定である。
アメリカの政策は、生産拠点の立地選定基準に変化をもたらした。「バイオセキュア法案」は2025年12月に、「2026会計年度国防権限法」(NDAA;National Defense Authorization Act)に組み込まれる形で成立し、連邦機関は「懸念されるバイオテクノロジー企業」が提供する設備やサービスの調達を禁じることを定めた。続いて2026年4月、アメリカは通商拡大法232条に基づき、輸入特許薬に対して最大100%の関税を課すと表明し、7月末から段階的に適用が開始された。米国内に製造拠点を有する企業には、より低い税率が適用される。また、ADCや細胞・遺伝子治療などの特殊な医薬品は関税ゼロの対象とされている。
医薬品の製造プロセス移転の際には、プロセスの検証、製品の比較評価、法規変更といった申請を全て完了させる必要があり、通常であれば数年を要する。そのため、すでに検査に合格している既存の工場買収は、移転スケジュールを短縮できる一般的な方法である。地政学的リスクや関税の壁といった影響を受けて、大手メーカーは続々と外部企業の買収へと舵を切り、最速でアメリカ国内における製造拠点を確保するための行動を起こしている。すでにロンザは2024年に12億米ドルで、スイスのロッシュ(Roche)グループから、子会社ジェネンテック(Genentech)のカリフォルニア州ヴァカビル(Vacaville)にあるバイオ医薬品工場を買収している。サムスンバイオロジクスは2026年3月に、イギリスのグラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline; GSK)がメリーランド州ロックビルに有する工場エリアを買収したことで、新たに6万リットルの原薬の生産能力を確保し、アメリカにおいて初となる製造拠点を獲得した。台湾企業も同様のロジックで海外展開を進めており、ボラ・ファーマシューティカルズ(Bora Pharmaceuticals)は1.225億米ドルで、アメリカのマクロジェニクス(MacroGenics)のCDMO事業を買収した。2026年7月に引き渡しが完了し、同じくロックビルにある大分子バイオ医薬品の製造施設を手に入れている。
フレンドショアリング(Friend-shoring)の潮流の下、世界的な第一線にいるロンザやサムスンバイオロジクスなどのCDMO大手メーカーは、生産能力の拡張では米国、欧州、韓国を重視しており、台湾には生産拠点を設けていない。外資や海外技術は、主に出資、技術ライセンス供与、受託製造契約などを通じて台湾の製薬産業との連携を深めている。その中でも特に、細胞・遺伝子治療分野において最も具体的な進展が見られる。TBMC社(Taiwan Bio-Manufacturing Corporation)の最大株主は、アメリカのNational Resilienceであり、同社が有する五大治療分野の製造技術のライセンス供与を受けている。TBMC竹北GMP工場は、2026年3月に操業を開始し、台湾で初となるmRNAワクチンの量産能力を有するGMP工場として、すでにアメリカや日本の細胞治療業界のクライアントと受託製造に関する協議を進めている。
ローカスセル社(Locus Cell)は、台湾の三顧株式会社、国家発展ファンドと日本の日立グループなどの共同出資で設立され、竹北にある同社のスマートセル工場は2026年4月に操業を開始している。ローカスセル社は工場竣工と同時に、ドイツのミルテニーバイオテク(Miltenyi Biotec)と提携協定を締結し、同社の細胞および遺伝子治療技術プラットフォームを導入した。またオーストラリアのCambium BioやZHENG YANGバイオメディカルテクノロジー社との三社協力の下で、ドライアイの細胞療法の商業的量産化を推し進めている。同治療法はすでにアメリカ食品医薬品局(FDA;Food and Drug Administration)のファストトラック指定を受けており、目下、第Ⅲ相臨床試験の実施に向けた準備が進んでいる。
Mycenax(永昕生医)は、原薬製造と無菌充填の二つのプロセスを中核とし、すでにEUや日本など6つの法規制機関の工場検査に合格しており、13カ国の市場へ製品を供給している。2026年7月、Mycenaxはアメリカのライフサイエンス設備メーカーのサイティバ(Cytiva)と協力関係を深めて、同社が有するAI クロマトグラフィープロセスのシミュレーションプラットフォームを導入した。またMycenaxは日本の医薬品流通企業であるアルフレッサ株式会社など日本企業三社との合弁でAlfenax Biologics社を設立し、日本にバイオ医薬品工場を建設するために30億新台湾ドル(約148億8,000万円)以上を投じる予定で、操業開始は2030年と見込まれる。
Bora Pharmaceuticalsは2026年2月に、GSKとの間で期間5年、総額2.5億米ドルのグローバル製造の契約更新を行った。カナダのミシサガ工場を中心に、アメリカのミネソタ州や台湾の中壢などの製造拠点にまで及んでいる。エアジェニックス(台康生技、EirGenix)は2025年11月に、スイスのサンド(Sandoz)との間でHER2バイオシミラーEG1206A(ペルツズマブpertuzumab)のグローバル独占ライセンス契約を締結した。契約金およびマイルストーンの総額は最大で1.52億米ドルとなる。同社の竹北微生物第二工場は2026年9月に操業を開始し、アメリカのGeneFab社との間で、同社が遺伝子治療用レンチウイルスベクター(Lentivirus vector)を製造する際の原料となるGMPグレードのプラスミドDNA(plasmid DNA)の生産契約を締結した。これにより、CDMOサービスはバイオ医薬品から遺伝子・細胞治療へと広がった。Formosa Laboratories(台耀化学)は2026年4月に、エアジェニックス初のバイオシミラーEG12014(トラスツズマブ)の製剤充填を引き継いだ。また同月には日本のジックサックバイオエンジニアリング(Jiksak Bioengineering)と提携。日本側が神経細胞選択的薬物送達技術を提供し、Formosa Laboratories側はCDMOのパートナーとして神経疾患ADCの開発および製造を担当するとしている。
台湾のCDMO関連の奨励措置や規制の枠組みは徐々に整いつつある。経済部主導によって改正された「バイオ医薬品産業発展条例」は2022年に施行され、CDMOも奨励措置の対象に加わった。企業が生産設備を購入すると投資税額控除が適用され、施行期間は2031年末までとなっている。再生医療法と再生医療製剤条例は2026年1月1日に施行された。生命を脅かす疾患または重度の機能障害をもたらす疾患を対象とする再生医療製剤については、第Ⅱ相臨床試験が完了して安全性と初期効果を確認した後、第Ⅲ相臨床試験の終了を待たずに、最長5年間の条件付き承認を申請できる。これにより、企業は製造需要を見据えた計画を早期に策定できるようになる。
行政院は期間を4年間(2026年~2029年)、総予算240億台湾ドル(約1,190億円)の「国家薬物レジリエンス準備計画」を承認し、2026年3月スタートを宣言した。「国産化・国内使用、スマート制御、国際連携」を軸として、少なくとも50種類の重要医薬品の国内生産を推進していく。原薬の国産化やバイオ医薬品の自主生産化を推し進め、国家レベルの医薬品スマート物流・備蓄センター(PILLSセンター)の建設も計画しており、台湾国内の製造企業のために、国内生産の需要を生み出していく、としている。
全世界のCDMO業界が長期的な製造協力と地政学的リスク分散へと歩みを進める中、台湾は原薬やバイオ医薬、細胞治療の製造能力を活かし、グローバル製薬メーカーにとって、単なる受託生産の枠組みから脱却し、リスク分散のための製造・技術パートナーとしてのポジションに近づきつつある。世界有数のCDMO大手は、現時点で台湾に生産拠点を設けていない。今後は、既存の出資関係や技術ライセンス、受託製造などの協力実績を足掛かりに、これらの企業による台湾へのさらなる投資をいかに促進するかが課題となる。将来的に台湾のCDMO企業はADCや細胞・遺伝子治療などの技術的ハードルの高い分野において量産の実績を積み重ね、グローバル製薬メーカーとの共同開発やプロセス移転、長期的な製造協力を深めていく必要がある。米国やカナダなどの生産拠点との連携を通じて国際的な受託製造サービスを拡大するとともに、台湾の政策動向に合わせて重要医薬品の国内生産や再生医療製剤の受託製造事業を強化していく必要がある。こうした取り組みを通じて、世界のバイオ医薬品サプライチェーンの再編が進む中、台湾と国際的な医薬品製造ネットワークとの連携強化が期待される。
資料來源: 工研院産業サービスセンター研究分析グループ